5G陰謀論に便乗する詐欺ガジェットにご注意を!

震災やパンデミック時にも悪徳業者いたね。許すまじ。

大変残念ですが、インターネットの世界には怪しげなセールスマンがうようよ潜んでおり、あらたな陰謀論や健康法が流行するのを待ち構えています。そして「何にでも効く万能薬」を引っ提げ、善良な人々が汗水たらして稼いだ金銭を奪っていくのです。

人間は「未知のもの」を恐れる生き物であり、新しいテクノロジーもまた、恐れるべき「未知」になりがち。ですから、5Gの夜明けとともにオンライン市場全体で新たな詐欺が生まれたとしても、なんら不思議はありません。

ECサイトにはびこる「5Gから守ってくれる」商品

今AmazonやEtsy、eBayといった販売サイトをのぞいてみると、「5Gの害からあなたを“守ります”」という商品が溢れています。その中身は、ファラデーケージ(電磁波を遮断する金属メッシュ)のオフィス用ファイル棚から「5G波を防ぐホログラフィック・シールド」を生成するサムドライブまで、多種多様です。

他にもシュンガ石のお数珠っぽいアクセサリーや、銀のレース製の頭巾風フェイスカバー、「5G波を100%カットすることが科学的に証明された」というへんてこなステッカー(40ドル)などなど…。よくぞこんなに思いつくと感心するほどバラエティ豊かです。さらに銀でコーティングされたタンクトップが100ドル、銅で覆われた野球帽、そして竹とコットンでできた「胎児を守るオーガニックなマタニティバンド(90ドル)」…。ここまでくると、「買う人いるの?」というほどの代物です。

Amazonで「5G保護」と検索すると、6,000件以上もの結果が表示されます。中には普通のスマホケースもありますが、スマホ周辺アイテムはむしろ少数派。Etsyでも4,400件以上の検索結果が返されますが、ほとんどがシュンガ石のアクセサリーやピラミッド、あるいは5Gをブロックするらしいニット帽などといったものばかり。

よく見ると、効果が怪しいものばかり

価格帯は15ドルから30ドルくらいのお手頃設定が多いものの、いずれも詐欺まがいの悪徳業者が楽して儲かる製品ばかり。古いヴァセリン(Vaseline)と日焼け止めを混ぜて「5G保護ローション」として売り出してみたら、50万ドルも荒稼ぎしちゃったという詐欺業者もいるようです。

トンデモ商品ばかりですが、これらは主に「5Gがもたらす電磁界や放射線からあなたを“保護”する」と謳う商品です。たとえば、ファラデーケージの宣伝文句には「これをルーターの周囲に設置すれば、5Gの信号がブロックできる」とあります。しかしファラデーケージの仕組みをよくよく考えてみれば、Wi-Fiなどすべての信号がブロックされてしまうことは明らかで、そもそもWi-Fiルーターは5G信号を発信しません。

私たちが目にしたシュンガ石の商品は、「ロシアのカレリア地方で採掘された鉱物から作った」とされています。本物のシュンガ石の成分は98%が炭素、あとは微量のフラーレンという物質が含んでおり、このフラーレンを「電磁周波数を遮断する」炭素分子の一種としています。

ただ、販売されているジュエリーやアクセサリーの中には、宣伝文句と比べて炭素の割合やフラーレンの量がはるかに低いケースが多いのが現状です。そもそも、肝心の効能についても、それを支える科学的根拠はあまりありません。シュンガ石について調べようと思っても、まず出てくるのは、実際の研究や調査といった裏付けのないスピリチュアル風な記事ばかり。

5Gステッカーは、5Gの電磁波から守ってくれるという触れ込みですが、ここではっきりさせておきましょう。放射線を遮断してくれるステッカーなど、SF小説の中だけの話です。

5G陰謀論に便乗する詐欺ガジェットにご注意を!

5G防止ローションに至っては、「物理的に肌を守ってくれる」なんて言っていますが、成分をよく見ると紫外線予防にすら使えない代物です。

「5G陰謀論」は、昔からある「高周波恐怖症」の現在形

新型コロナウイルスの感染拡大にともなって5G陰謀論は急速に拡散し、携帯電話の基地局が襲撃される事件まで起こりました。しかし、5Gに限らず、高周波の電波による健康被害への恐怖はずっとずっと前から存在していました。

1900年代初頭にはすでに、複数の医師が高周波電流の危険性をかたる長文記事が新聞に掲載されました。これは「放射線恐怖症」と呼ばれるもので、「電子レンジには近づかない方がいいよ」というのと同じ理屈(子供のころそう言われませんでした?)。 1990年代に携帯電話が普及した時も、「携帯の電波を浴びすぎるとガンになる」といった説が流れ、「長電話はスピーカー通話にするべき」なんて言われました。実際にやっている人はほとんどいませんでしたけど。

学術サイトのthe Conversationによると、5Gパニックは「政府による隠蔽」、「癌の治療法を隠匿する医師」、「軍のマインドコントロール実験」など、他の陰謀論との合わせ技になることが多いのだそう。

古くからの「高周波恐怖症」に拍車をかけた、ある論文。

ニューヨークタイムズ(NYT)によると、こうした5G陰謀論は過去にあった同様の理論から派生したものであると同時に、フロリダのBroward County Public Schools(ブロワード郡の公立学校)に雇われたコンサルタント兼物理学者のビルP.カリー博士が作成した、あるグラフに由来するともいわれています。そのグラフとは、同氏が2000年に発表した「脳組織(灰白質)におけるマイクロ波吸収」という論文に登場します。

カリー氏が研究論文を執筆したのは、フロリダの同学区で生徒向けにノートパソコンを購入し、ワイヤレスネットワークをインストールすることが「健康上のリスクをもたらすのでは…?」と不安視されたことがきっかけでした。

カリー氏の予測に基づいたグラフを見ると、「無線周波数が脳腫瘍を引き起こす恐れがある」というリアルなリスクが示されています。しかし、この研究には1つ大きな見落としがあるとNYTは指摘しています。それは、高い周波数の電磁波に対し、人間の皮膚がバリア機能を発揮するということです。

しかし、この論文は人々の意識を変えてしまいました。

権威や政府への不信感が、1人の医師の言葉に説得力を持たせた?

人は信じようと思ったものを、信じます。「非電離放射線の一種である高周波に、DNAを破壊あるいは書き換えるエネルギーはない」という明確な証拠がなくても、それが理由にはなりません。世界保健機関(WHO)が「基地局やワイヤレスネットワークからの高周波曝露レベルは非常に低い」とし、「高周波は距離とともに急速に消散するため人体の健康被害はない」と公言しても、聞く耳持ちません。連邦通信委員会と米国食品医薬品局の両方が、「高周波とガンの因果関係には十分な証拠がない」と言ったとしても、意に介しません。

それよりも、高名な医師1人が警鐘を鳴らすと、そこに説得力が生まれます。そのうえ、もともと「政府は何か隠しているに違いない」という疑心暗鬼が存在したらどうでしょう? パンドラの箱が開かれ、そして二度と閉じることはないでしょう。しかし、人々が不安に陥っているからといって、AmazonやEtsy、eBayで詐欺業者が明らかにまがい物とわかる商品を売っていいことにはなりません。が、残念ながら、こうした製品はAmazonのようなプラットフォームにはびこっているのです。

サードパーティのセラーを抱えるAmazonは玉石混交

何年もかけて、Amazonはオンラインの大規模小売店から、品質と安全性が疑わしい製品が行き交うフリーマーケットへと変貌を遂げてきました。これは、Amazonが取り扱う商品の多くがサードパーティの小売業者によるものだからです。もちろん、誠実なビジネスを行っている業者もいますが、中には「儲かれば何を売ってもいい」といった輩も少なくありません。

2019年のウォール・ストリート・ジャーナルの調査によると、Amazonで取り扱う商品のうち、4,152品目が連邦政府機関によって「安全でない商品」と通告された、あるいは販売禁止措置が取られた製品でした。そのうち116の製品には「FDA承認済」といった不正なラベルが表示され、FDAによって販売禁止された幼児用スリーピングマットなど、Amazonがすでに販売中止を表明していた商品も80点確認されました。

さらにCNBCは、Amazonのマーケットプレイスで、賞味期限の切れた粉ミルクや乳児用クラッカーが定期的に販売されていたことを突き止めています。こんな環境ですから、5G関連のまがいものが出回っていても、不思議はないのです。もちろん、基本的にこれらの商品に効能はありません。

実のところ、Amazonはブランド登録やTransparencyプログラム(独自のコードによる追跡サービス)を展開し、偽造品防止に取り組んでいます。また、ブランド登録した企業が偽造品を削除できるProject Zeroと呼ばれるプログラムも導入されました。しかし、こうした対策も、5Gから人々を「保護」するという詐欺的な商品には対処できていません。米GizmodoはAmazonに対し、「科学的根拠がない、あるいは疑わしい詐欺商品がバンされないのか」と問い合わせましたが、返答はありませんでした。

確かに、5G関連の詐欺商品は賞味期限切れの食品や違法なサプリメント(こちらもAmazonで売られています)のように、人体に害を及ぼすものではありません。シュンガ石が本当に5Gから守ってくれると信じている人は、それが単なるアクセサリーにすぎないと気づくこともないでしょう。

しかし、インターネットの小売サイトや再販サイトでこういった商品が急増しているのは、オンラインショッピングの場での消費者保護がいかに乏しいか、そして小売プラットフォームがSNS同様に誤情報拡散の巣窟になり得ることを表しているのです。AmazonはWSJに対し、同社が実際に商品を販売しているわけではなく、サードパーティの販売者が投稿したものに対する責任から法的に保護されているため(セクション230)、偽の商品が販売されているとしても責任を負わない、と述べました。

政府による対策と、消費者の「本物を見極める目」が大事

つまり、政府が小売業者の規制を始めない限り、あるいは少なくとも消費者保護を手厚くする法案が通らない限り、誤情報から生まれた陰謀論によって詐欺師と、それを許すサイトが甘い汁を吸い続けることになります。もちろん、いずれ「5G恐怖症」は衰退し、市場の収益性は低下します。ですが、その頃になればまたあらたに「健康への脅威」が登場し、5Gに取って代わることになるでしょう。

「何にでも効く」というものは、概して何にも効果がないことも多いもの。「5G陰謀論」に便乗する悪徳業者からまがい物を購入することのないよう、どうかどうか、気をつけてください。