ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 折り畳み式スマホ競争に各社参戦、起爆剤なるか

 スマホメーカーは、端末の買い換えサイクル長期化などによる販売減速を食い止めるためには、そうしたイノベーション(技術革新)が必要だとみている。ソフトウエアやディスプレー品質、カメラ機能が年々改良されていることから、消費者は近年、買い替えの必要性をあまり感じなくなってきている。

 それに加え、大型でありながらバッグやポケットであまり場所をとらないディスプレーの開発が急務になっている。次世代通信規格「5G」を利用した無線回線の提供により、動画や仮想現実(VR)などの視覚的魅力の高いメディアの消費が急増すると予想されるためだ。

 だがスマホメーカーはまずいくつかの課題を克服しなくてはならない。1つはディスプレーの品質や耐久性を犠牲にせずに半分に折り畳める柔軟性のある端末の開発だ。必要な素材の供給不足や組み立てコストの上昇といった問題もある。さらに商業上の究極の疑問は、消費者がそうしたスマホを欲しがるのかということだ。

「新しいものを必要としている」

 調査会社IHSマークイットのスマホ業界アナリスト、ジュシー・ホン氏は「これら折り畳み式スマホのさまざまな要因がメリットとなり、使い勝手が向上すると消費者を納得させるには数年かかる」としながらも「スマホ市場は成熟しており、何か新しいものを必要としている」と指摘した。

 調査会社IDCによると、スマホ出荷台数は2017年に1%減の14億7000万台となり、年間で初めてマイナスに転じた。


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ウォール・ストリート・ジャーナル日本版  折り畳み式スマホ競争に各社参戦、起爆剤なるか

 2007年に初代「iPhone(アイフォーン)」が発売されて以来、端末の性能やソフトウエアは大幅に進化したが、基本的な外観はほぼ変わっていない。「iPhone X(アイフォーン・テン)」などの上位機種で今や標準となった全画面ディスプレーなどのイノベーションは基本デザインを変えるものではない。

 こうした状況は携帯電話が普及し始めた当初とは対照的だ。携帯電話はスライド式から開閉式、キーボード搭載型までさまざまな形やサイズのモデルが登場した。

 中国の中興通訊(ZTE)は昨年、「Axon(アクソン) M」という2つのディスプレーがヒンジで接続された折り畳み式スマホを発売した。だが売れ行きは芳しくなく、批評家からも酷評された。

 特許申請書によると、スマホメーカー各社は異なるデザインでこの技術を実現しようとしている。ファーウェイは3月、本の背のようなヒンジが付いたスマホの特許を申請した。アップルはZ字型に折り畳めるデザインをはじめ複数の折り畳み式端末の特許を申請した。アップルの広報担当者はコメントを差し控えた。

製造できる企業はごく一部

 中国の広東欧珀移動通信(OPPO、オッポ)、維沃移動通信(Vivo、ビボ)、聯想集団(レノボ)は、本や札入れのように閉じられる端末の特許を現地当局に申請した。事情に詳しい関係者が7月にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に語った情報によると、サムスンは早ければ来年にも折り畳み式ディスプレー搭載の端末を発表する計画だ。

 OPPOとVivoの広報担当者はコメントを差し控えた。レノボの広報担当者は「詳細は公表できない」と説明。サムスンの広報担当者は「現時点では、将来の端末について話せることはない」と述べた。

 現在、高度な技術を要する折り畳み式ディスプレーを製造できる企業は限られている。IDCの上級調査マネジャー、アナベル・シュー氏によると、サムスンのディスプレー製造部門、LGディスプレー、京東方科技集団(BOE)だ。

 事情に詳しい関係者によると、BOEはファーウェイと同社の折り畳み式端末の製造で協業している。

 折り畳み式スマホは大半のスマホに搭載されたものとは異なるディスプレーを必要とする。業界アナリストによると、ほとんどのスマホには液晶ディスプレー(LCD)が採用されているが、折り畳み式端末には柔軟性の高いアクティブマトリクス式有機EL(AMOLED)ディスプレーが使用される公算が大きい。AMOLEDはiPhone Xやサムスンの「ギャラクシーS」で既に採用されているが、LCDよりもコストが高い。

第1世代は2000ドル前後にも

 素材も調達が難しい。IHSのホン氏によると、現在スマホに使用されているAMOLEDディスプレーの95%はサムスンのディスプレー製造部門が供給している。

 折り畳み式ディスプレーは繰り返し開閉しても耐えられる丈夫さも求められる。また、かなり容量の大きいバッテリーやデザイン変更に伴う端末内部のハードウエアの大幅な手直しも必要になる。

 さらに価格の問題もある。多くの販売店はもはや1000ドルの高性能スマホにたじろぐことはないかもしれないが、第1世代の折り畳み式端末はその2倍近い価格で販売されるとホン氏はみている。

 大型ディスプレーは既にタブレットやタブレットとしても使えるパソコンで広く利用されているため、折り畳み式スマホにどの程度の市場があるのかは不明だ。また端末依存に対する懸念も高まっており、消費者がこれまでにないほど豪華で視線をくぎ付けにする端末を今後も欲しがるかどうかは分からない。

 英サリー大学の客員教授で長年にわたり携帯電話のデザインを集めているスティーブン・テンプル氏は次のように話す。「誰かが的確な答えを見つけるまで、企業はさまざまなことを試すことになるだろう」

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