【決定版】上手な読書感想文の書き方のコツ

読書感想文の書き方は、なかなか教わらないもの。大学生や社会人になっても、読書感想文に苦手意識をもっていませんか?

「書き方がさっぱりわからない。どうしよう……」「どうすれば、おもしろい感想文を書けるのかなぁ?」

……そんな方は、ぜひ本記事をご一読ください。豊富な例文とともに、上手な読書感想文の書き方のコツを徹底的に解説します。

  • 上手な読書感想文の書き方5ステップ
  • 上手な読書感想文の書き方の例
  • 問い→答え型
  • ビフォー→アフター型
  • マクラ→主張型
  • 上手な読書感想文の書き方のコツ
  • 上手な読書感想文の書き方を学べる本・Webサイト
  • 上手な読書感想文の構成

    上手な読書感想文の書き方を理解するため、まずは基本的な構成を押さえましょう。

    書き出し・本題・締め

    読書感想文は、3つのブロックで考えます。

    1. 書き出し
    2. 本題
    3. 締め

    「書き出し」は、始めの1~2段落。感想文の核となるテーマを提示したり、魅力的なフレーズで読者の興味を引いたりすることが目的です。

    「書き出し」を受けて感想や主張を述べるのが「本題」。結論を述べて全体をまとめるのが「締め」です。

    1. 「書き出し」で読者を惹きつける
    2. 「本題」で感想や私見を述べる
    3. 「締め」で意外性のある結論を述べる

    ……という読書感想文なら、構成的に美しく、読者におもしろいと感じてもらえます。

    本題は後回し

    読書感想文を書くとき、「本題」ではなく「書き出し」と「締め」から決めましょう。「本題」から始めようとすると、「どう書き始めたらいいのか……」「どうやって締めくくろう?」と悩み、止まりやすいものです。

    紙の上に点をふたつ打てば、そのあいだに引く線の角度・長さが自動的に決まりますよね。同様に、文章の「始点」と「終点」を決めることで、内容も決まるのです。

    教育学者・齋藤孝氏は、書き出しに「問い」を、締めに「答え」を書く方法を紹介しています。「仕事の本質とは?」などの問いをまず投げかけ、その問いについて論じたのち、「答えは、他者を思いやることではないだろうか」と締めくくるのです。

    「答えはなんだろう?」と読者を惹きつけられますし、締め方を迷うこともありませんね。「問いの答えを論証する」という目的が生まれるため、本題として何を書くかも見えてくるでしょう。

    「書き出し」と「締め」が決まれば、穴埋め問題のように「本題」の内容を考えやすくなるのです。1,000字程度(原稿用紙2~3枚)なら難なく埋められるはず。

    4つの構成例

    具体的に、どのような「書き出し」と「締め」にすればいいのでしょう? 齋藤孝『だれでも書ける最高の読書感想文』(KADOKAWA、2012年)の内容を整理し、4パターンの構成を提唱します。

    ◆読書感想文の構成4パターン

    1. 感想→展開:感想から始め、そこから発展した話題で締める【例】桃太郎はとても勇敢だと感じた→私も困難に立ち向かう勇敢さをもちたい
    2. 問い→答え:内容に関連する問いから始め、その答えで締める【例】仕事の本質とはなんだろう?→他者への思いやりではないだろうか
    3. ビフォー→アフター:「読む前の自分」から始め、「読んだあとの自分」で締める【例】最初、○○と考えていた→しかし本を読んで○○という考えに変わった
    4. マクラ→主張:関係なさそうな話題から始め、主張につなげる【例】大谷選手は不可能とされた二刀流を貫いた→桃太郎も冒険心の大切さを教えてくれる

    これら4パターンを用いた読書感想文の書き方例は、のちに提示します。

    上手な読書感想文の書き方5ステップ

    上手な読書感想文の書き方を、5つのステップで解説します。

    1. 本を読みながら感想をメモする

    まずは本を読みつつ、考えたこと・感じたことをメモしていきましょう。

    などを思いつくまま書き出してみてください。1行程度の箇条書きにすると情報量が絞られ、ポイントが明確になります。

    心に残った箇所にふせんを貼ったり線を引いたりしておくと、あとで役立ちますよ。

    2. 最も書きたいことを決める

    読み終わったら、箇条書きメモのなかから、最も読書感想文に書きたいこと(書けそうなこと)をひとつ選びましょう。このひとつのテーマを膨らませ、読書感想文として仕上げていきます。

    3. 書きたいことを型に当てはめる

    書きたいことが決まったら、先述した4つの型のどれかに当てはめ、「書き出し」と「締め」を決めましょう。『桃太郎』を読んで「冒険心をもつことは大切だと学んだ」というテーマで書くなら、以下のようになります。

    1. 【感想→主張型】書き出し:『桃太郎』を読んで、冒険心をもつのは大切だと感じた締め:私も桃太郎を見習い、何事にも積極的にチャレンジしようと思う
    2. 【問い→答え型】書き出し:なぜ『桃太郎』に胸打たれるのだろう?締め:冒険心をもつ大切さを、桃太郎が教えてくれるからだろう
    3. 【ビフォー→アフター型】書き出し:私は引っ込み思案で、何事にも消極的だった締め:しかし『桃太郎』を読んで、冒険心をもつ大切さを学んだ
    4. 【マクラ→主張型】書き出し:大谷翔平選手は、不可能とされた二刀流でメジャーリーグに挑んだ締め:『桃太郎』にも、冒険心をもつ大切さが描かれていた

    【感想→主張型】だと、「チャレンジ精神をもつ大切さを学んだ」という感想から始め、自分の主張を展開し、結論を述べます。

    【問い→答え型】では、本を読んで感じた疑問から始め、それに対する自分なりの答えを探っていきましょう。上の図のように、書きたいテーマを「締め」に置き、その答えに至るような「書き出し」を逆算する方法もあります。

    【ビフォー→アフター型】でも逆算で考えましょう。「『桃太郎』を読んで冒険心の大切さを学んだ」というラストにしたいなら、書き出しは「私は引っ込み思案で、何事にも消極的だった」という「ビフォー(読書前)」にすればいいのです。

    【マクラ→主張型】では、書きたいテーマから連想する話題を冒頭に置きましょう。「大谷翔平選手は、不可能とされた二刀流でメジャーリーグに挑んだ」というエピソードをマクラに置くと、「冒険心をもつことは大切だ」という締めにつなげやすいですね。

    書きたいテーマをなんらかの型に落とし込むことで、「書き出し」と「締め」が決まり、全体の方向性が明らかになります。

    4. 「書き出し」と「締め」のあいだを箇条書きで埋める

    「書き出し」と「締め」をつなぐ「本題」を考えましょう。「書き出し」と「締め」のあいだの論理を埋めるように、必要な項目を1行ずつ箇条書きします。ひとつの箇条書きが読書感想文の1段落に相当すると考えてください。

    この例では、以下のような流れです。

    1. 「私は、冒険心のないつまらない人間だった」で始める
    2. 具体的にどう冒険心がないか詳しく説明
    3. そんな自分を桃太郎と対比
    4. 冒険心をもつ大切さを述べて締める

    「冒険心のなかった私」(ビフォー)が、読書を通じて「冒険心を学んだ私」(アフター)に成長する過程が埋まり、読書感想文のプロットが完成しましたね。

    書くことが思い浮かばないなら、

    ……などから考えてみましょう。

    5. 文章を補完し、完成させる

    「箇条書きひとつで1段落」を目安に執筆し、読書感想文を完成させましょう。箇条書きを段落の冒頭に置き、それを補足していくイメージです。

    このように、1段落当たりひとつの情報を提示する書き方は「パラグラフ・ライティング」と呼ばれ、論理的な文章の基本です。

    上記の読書感想文の書き方がすべてではありませんが、「どこからどう書いたらいいのか……」という方は、このルールに沿って構成を考えてみてください。

    上手な読書感想文の書き方の例

    上でご紹介した4つの「型」ごとに、文例を提示しつつ読書感想文の書き方を解説します。題材は『桃太郎』(楠山正雄版)です。

    感想→展開型

    まずは【感想→展開型】。「書き出し」で感想を述べ、それを私見・主張に発展させます。読書感想文の書き方としては最もスタンダードです。気に入った言葉の引用から始めてもいいでしょう。

    例文

    (書き出し=感想)

    『桃太郎』の村人たちはなんて卑怯なのだろう。『桃太郎』を読んで、私はそんな感想を抱いた。

    (本題)

    桃太郎は、なぜかたったひとりきりで鬼退治に出発する。桃太郎と一緒に戦うのは、道中で出会った動物だけ。村の大人たちは誰ひとりとして桃太郎に加勢してあげない。自分たちは何もせず、ただぬくぬくと村にこもって、桃太郎の帰りを待っているだけだ。自分から言い出したこととはいえ、たった15歳の子どもをひとりで危険な鬼が島に行かせるなんて。さすがに冷たすぎるのではないか。

    しかし自分の身に置き換えてみれば、そんな村人たちの気持ちが理解できなくもない。鬼は人間よりもはるかに大きくて、筋肉も隆々で、口にはするどいキバさえ生やしているだろう。もし自分が『桃太郎』の村の住人だったら? そんな恐ろしい鬼の住処に、自ら攻め入っていく勇気が湧くだろうか。

    現状を打破するのは面倒だし、ときには危険をともなうことだ。行動しなければ問題は解決しないが、その代わり、怖い思い・つらい思いをすることもない。また変に状況を悪化させてしまうリスクもない。そんな「惰性」の心理が、村人たちに二の足を踏ませたのではないだろうか。

    思えば大学三年生の頃。私が所属していたゼミでの飲み会には、乾杯とともにビールを一気飲みするという風習があった。みんながあっという間にビールを飲み干していくなか、ひとりだけ、まだほとんど口をつけられずにいる学生がいる。私の同期のひとりであるAくんだ。

    「さぁ早く!」と先輩たちに急かされながら、Aくんは苦手なビールを無理に流し込んでいく。しかし半分ほど飲んだところで嗚咽し、口を押さえながらトイレに駆け込んでしまった。あとで聞くと、じつはAくんはまったくお酒を飲めない体質だったのだという。先輩や同期たちは「たった1杯くらいで情けない」と笑うばかり。当時はまだ「一気飲みをさせるのがいけないことだ」という問題意識が薄い時代だった。だから私もつい、みんなと一緒になってAくんを笑ってしまった。

    あのときの私は、一気飲み文化という惰性に流された、臆病な「村人」たちと同じだったのではないか。

    よくよく考えれば明らかに悪いことなのに「それが習わしだから」「昔からそうだから」という「惰性」で悪事がまかり通ってしまう。そんな事例は世のなかにいくらでもある。企業におけるセクハラ・パワハラ問題、サービス残業の強要、マイノリティへの偏見、議員の汚職・収賄……。昨今話題にのぼっているさまざまな社会問題にも、少なからずこの「惰性」の心理がからんでいるだろう。そして “鬼” がそこにいると知りながらも、自ら立ち上がり、声を上げられる勇者はそう多くない。

     【決定版】上手な読書感想文の書き方のコツ

    しかし近年、社会はものすごい勢いで変わり始めている。黒人差別の撤廃を求めるデモ「ブラック・ライブズ・マター」の盛り上がりは記憶に新しい。また日本でも、労働環境の見直しや性的格差の是正など、より暮らしやすい社会の実現を目指す動きが盛んになっている。立ち上がった「桃太郎」たちの声を真摯に受け止め、積極的に社会を改善していこう。そんな風潮が徐々に醸成されつつあるように感じる。

    (締め=主張)

    ほかならぬ私自身も、社会や自分の心にひそむ「惰性」という名の鬼に立ち向かう勇気をもたねばならないと思う。

    (1,340字)

    解説

    上の例は、このような流れになっています。

    1. 「桃太郎と一緒に鬼退治に行かない村人が卑怯だと思った」と感想を述べる
    2. それを「惰性に流されることはよくない」という一般論に発展させる
    3. 「惰性にあらがう勇気をもちたい」と主張する

    おもしろい読書感想文を書くポイントは、意外性を意識すること。「桃太郎が鬼を倒して立派だった」のように誰でも思いつく感想は、読み手に驚きを与えません。読み手が「そう来たか」と思うような “普通でない” 意見のほうが、読書感想文としての価値は高まります。

    上の例では、

    などの意外性を盛り込み、読み手が驚くよう工夫しました。

    ……など、自分なりの見解や体験を交えることも、オリジナリティの高い読書感想文の書き方のポイントです。

    問い→答え型

    【問い→答え型】では、冒頭で問いを投げかけ、結論でその答えを述べます。

    ……などを「問い」として投げかけ、その「答え」を提示することで締めくくりましょう。

    ……と物語中のエピソードや関連テーマを掘り下げ、さまざまな角度から「問い」を考えます。最後に述べたい主張や結論から逆算して問いを考えてもOKです。

    いずれにせよ、本に答えが書いてあるような問いではなく、自分で仮説を立てる問いのほうが、読書感想文としてのクオリティが高くなります。

    例文

    (書き出し=問い)

    鬼たちは本当に「悪者」だったのだろうか? 『桃太郎』を読んで、私はそんな疑問にぶつかった。

    (本題)

    というのも『桃太郎』の本文には、鬼たちが悪事を働いていることの決定的な証拠が、いっさい描かれていなかったからだ。

    まず桃太郎が鬼退治を思い立つのは、村にやってきた旅人から「悪い鬼たちが、ほうぼうの国から宝物をかすめ取っている」という “ウワサ話” を聞いたからだ。つまり桃太郎は、鬼が悪さをする場面を直接見たわけでも、鬼に襲われた当事者から話を聞いたわけでもない。見ず知らずの旅人から聞いた真偽不確かなウワサ話だけが、鬼を「悪者」とする唯一の根拠なのだ。

    そもそも鬼たちが攻撃的に振る舞う描写さえ、本文中にはたった1ヵ所しかない。物語終盤、「(鬼たちは)太い鉄の棒をふりまわしながら、『おう、おう。』とさけんで、向かってきました」という箇所だ。しかしこの1文だけでは、鬼を凶暴な危険生物であると断定することはできない。なぜならこれは、桃太郎たちがまさに鬼が島に攻め入った場面。外敵に攻め込まれているわけだから、鬼たちが防衛行動をとるのは当然である。

    さらに鬼たちは、たかがキジに目をつつかれたり、サルに引っかかれたりしたくらいで簡単に降参してしまうほどの、弱い弱い生き物として描かれている。「体が大きいばっかりで、いくじのない鬼ども」という直接的な描写さえある。桃太郎が鬼が島に上陸してきたときにも、鬼たちは「あわてて門の中に逃げ込んで、くろがねの門を固くしめてしま」ったほどだった。こんなにも弱々しく臆病な鬼たちが、旅人が伝えたような悪事を働くことなどできるだろうか?

    このように『桃太郎』の本文を読むかぎり、鬼たちを「凶悪で暴力的な悪者」と断定できる根拠はない。ともすれば鬼たちは、恐ろしい見た目から誤解を受けやすいだけの、心優しい生物だった可能性さえある。彼らが丈夫な「くろがねの城」を築き、鬼が島という孤島にこもっているのも、外敵から身を守るための苦肉の策だったのではないか? こう考えると「なぜ鬼たちは、わざわざ鬼が島などという僻地に暮らしているのか?」「なぜ鬼たちは、いとも簡単に桃太郎に負けてしまったのか?」など、物語上のさまざまな疑問点も解決するのである。

    (締め=答え+主張)

    以上の議論をふまえれば、「鬼=悪者」という説が、桃太郎サイドによる一方的な決めつけに過ぎなかった可能性も十分考えられるだろう。

    確固たる根拠がない以上、桃太郎はいきなり鬼が島に攻め込んで、鬼を襲ったりすべきでなかった。まずはウワサ話が本当なのか? それともデマなのか? 真偽を慎重に確認することが必要だったのではないか。

    SNSなどが発達した現代社会では、誰もが手軽に情報発信できる環境が整っている。そのぶん真偽の不確かな情報も、数多く世のなかに飛び交うようになった。ときにその情報が誤解を生み、偏見を生んで、いさかいに発展することも珍しくない。

    無実の誰かが「鬼」に仕立て上げられ、正義の名のもとに「成敗」されてしまう。そんな悲劇を生まないためにも、情報を正しく見極め・取捨選択する意識を、私たちひとりひとりがもたねばならないだろう。

    (1,292字)

    解説

    上の例は、このような流れになっています。

    1. 「鬼は本当に『悪者』だったのだろうか?」と疑問を投げかける
    2. 鬼を悪者と言いきれない理由を論証
    3. 「鬼は本当に『悪者』だったのだろうか?」という疑問に答えを出す
    4. その答えから導いたことを主張

    この場合も、ポイントはやはり「意外性」。「鬼は悪者である」という前提をくつがえし、読み手に驚きを与えます。

    ビフォー→アフター型

    【ビフォー→アフター型】では、本を読む前の自分(ビフォー)と本を読んだあとの自分(アフター)を比較し、読書を通じた自分の内面的な変化を記述します。

    これが、【ビフォー→アフター型】の大まかな流れです。読書を通じた自分自身の成長を書けるので、学校や会社の課題として出された読書感想文に適しています。

    例文

    (書き出し=ビフォー)

    私はいつしか、冒険心のないつまらない人間になっていたように思う。

    (本題)

    私は日頃、ちょっとしたチャレンジさえ面倒くさがり、無意識に避けてしまうことが多い。たとえば新しい趣味に手を出したり、新しいジャンルの本を手に取ってみたり、見知らぬ街へ目的もなく行ってみたり。そんな「冒険」を最後にしたのはいつだっただろう?

    一方の桃太郎は違う。桃太郎は旅人から鬼が島の話を聞くや「その鬼が島へいってみたくって、もう居ても立ってもいられなく」なったという。鬼が島という未知の世界に飛び込んでみたい。そんな矢も楯もたまらぬ冒険心が、桃太郎を鬼退治へと駆り立てたのだ。「宝物が欲しい」という欲や、「悪い鬼を倒したい」という正義感も多少はあったかもしれないが、それらはあくまで “おまけ” に過ぎなかっただろう。

    もし私なら、まずまっさきに、そんな不気味で恐ろしい鬼が島に行きたくないと考えたはずだ。「面倒くさい」「危ない」「そんなことをしても得がない」さまざまな言い訳を並べ立て、鬼が島に行かなくてよい口実をなんとかつくろうとしていたに違いない。情熱に突き動かされるままに行動できる桃太郎のことが、私には少しだけうらやましい。

    もちろん、冒険心を手放しに “美徳” とするのは危険である。行きすぎた冒険心は単なる「無謀」。先のことを考えずに行動すれば、そのぶん痛い目を見ることも多いだろう。場合によっては命を失うなど、取り返しのつかないことになるかもしれない。未知のことを恐れるのは、知恵をもっていることの証でもあるのだ。

    (締め=アフター)

    しかしながら、ただ利口なばかりでも人生はつまらない。刺激のある人生を送るためには、ときにスパイスのような冒険に飛び込むことも必要であろう。これからは私も桃太郎に学び、仕事や私生活において、少しでも新しいことにチャレンジすることを心がけたいと思う。

    (768文字)

    解説

    上の例文は、このような流れです。

    1. 私は冒険心を忘れていた
    2. しかし、桃太郎に感化された
    3. 「冒険心の大切さを学んだ私」に成長した

    説得力を高めるには、次のような要素を入れましょう。

    自分の心の動きをそのまま書けばいいので、比較的簡単ではないでしょうか?

    マクラ→主張型

    最後は【マクラ→主張型】。

    マクラとは、落語で「本題に入る前の小話」を意味します。昭和の落語名人・古今亭志ん朝師匠は『夢金』という演目のマクラで「人間、誰にでも欲というものがありまして……」と始め、欲張りな船頭の話につなげました。

    マクラのテクニックは、読書感想文にも使えます。

    ……など、本の内容から少し離れた話題で始めることで意外性が生まれ、インパクトが強くなります。

    『桃太郎』の読書感想文が「私はスポーツ観戦が好きだ。」で始まったらどうでしょう? スポーツ観戦が『桃太郎』にどうつながるか予測できないため、気になりますよね。

    【マクラ→主張型】は、本と関係なさそうな話題から始める点で、ほかの3つの型よりテクニックを要します。マクラと本題の距離が離れれば離れるほど意外性が大きくなり、インパクトが強まるでしょう。

    例文

    (書き出し=マクラ)

    「風評被害」という言葉が世間に広まったのは、思えば2011年、東日本大震災がきっかけだった。

    当時、風評被害に苦しんでいたのは、主に福島県の農家や漁師たちだった。放射性物質の検査基準をクリアしているにもかかわらず、「福島産」と記載されているだけで、野菜や魚などがぱったり売れなくなってしまったのだ。「福島県産の食べ物は危ない」、そんなデマがインターネットやクチコミを介して広まり、福島県の農水産業は深刻な打撃を受けた。

    その一件によって、私たちは風評被害というものの恐さ、そして愚かさをつぶさに目の当たりにしたはずだった。にもかかわらず、いまだにこのような事例はあとを絶たない。たとえばフェイクニュースがインターネット上で拡散され、有名人が誹謗中傷される。デマや陰謀論が広まり、公的機関などがバッシングを受ける。有名事件の被害者・関係者の個人情報がインターネット上にさらされ、理不尽な言いがかりをつけられる。

    誰もが手軽に情報発信できるようになった現代社会。世のなかには真偽不確かな情報が大量にあふれ、真実をしのぐほどの強大な力をもち始めている。

    (本題)

    『桃太郎』に登場する鬼たちも、じつはそんな「風評被害」の被害者だったのではないか? 本稿ではそんな仮説を考えてみたいと思う。

    というのも『桃太郎』の本文には、鬼たちが悪事を働いていることの決定的な証拠が、何ひとつとして描かれていない。

    まず桃太郎が鬼退治を思い立つのは、村にやってきた旅人から「悪い鬼たちが、ほうぼうの国から宝物をかすめ取っている」という “ウワサ話” を聞いたから。つまり桃太郎は、鬼が悪さをする場面を直接見たわけでも、鬼に襲われた当事者から話を聞いたわけでもない。見ず知らずの旅人から聞いた真偽不確かなウワサ話だけが、鬼を「悪者」とみなした唯一の根拠なのだ。

    そもそも鬼たちが攻撃的に振る舞う描写さえ、本文中にはたった1ヵ所しかない。物語終盤、「(鬼たちは)太い鉄の棒をふりまわしながら、『おう、おう。』とさけんで、向かってきました」という箇所だ。しかしこの1文だけでは、鬼を凶暴な危険生物であると断定することはできない。なぜならこれは、桃太郎たちがまさに鬼が島に攻め入っている場面。外敵に攻め込まれているわけだから、鬼たちが防衛行動をとるのは当然である。

    さらに鬼たちは、たかがキジに目をつつかれたり、サルに引っかかれたりしたくらいで簡単に降参してしまうほどの、弱い弱い生き物である。本文中には「体が大きいばっかりで、いくじのない鬼ども」という直接的な描写さえある。桃太郎が鬼が島に上陸してきたときにも、鬼たちは「あわてて門の中に逃げ込んで、くろがねの門を固くしめて」しまったほどだった。こんなにも弱々しく臆病な鬼たちが、旅人が伝えたような悪事を働くことなどできるだろうか?

    このように『桃太郎』の本文を読むかぎり、鬼たちを「凶悪で暴力的な悪者」と断定できる根拠は何もない。つまり「鬼=悪者」という説が、桃太郎サイドによる一方的な決めつけに過ぎなかった可能性も十分考えられるのだ。

    確固たる根拠がない以上、桃太郎はいきなり鬼が島に攻め込んで、鬼たちを襲ったりすべきでなかった。まずはウワサ話が本当なのか? それともデマなのか? 真偽を慎重に確認するステップを踏むべきだったのではないか。

    (締め=主張)

    風評被害によって無実の人が「鬼」に仕立て上げられ、正義の名のもとに「成敗」されてしまう。そんな悲劇を生まないためにも、情報を正しく見極め・取捨選択する意識を、私たちひとりひとりがもたねばならない。

    (1,466文字)

    解説

    上の例は、このように話を展開しています。

    1. マクラとして風評被害の事例を提示
    2. そこから「鬼たちが悪者ではなかった」という自説の提唱・論証
    3. 「情報を正しく取捨選択すべき」と主張

    内容は【問い→答え型】の例とほぼ同じですが、マクラの存在により、インパクトが強まっていますね。

    1. 「風評被害」という唐突な話題から始まる意外性
    2. 「風評被害」と『桃太郎』がどうつながるか、という疑問

    というふたつの要素で、読者の興味がかき立てられる読書感想文の書き方になっているのです。

    上手な読書感想文の書き方のコツ

    読書感想文の書き方として、以下のポイントも押さえておきましょう。

    正解にとらわれない

    大前提として、読書感想文はあくまで “感想” 。「こう書かねばならない」という絶対的な正解やルールは存在しません。

    「この本はとてもつまらなかった」「著者の意見にまったく共感できなかった」

    というのも立派な感想。どんなテーマ・切り口で書いたにせよ、内容さえよければ評価してもらえるはずです。ただし、批判的に書くなら「なぜつまらなかったか」「なぜ共感できなかったか」を論理的に説明し、建設的な議論につなげる必要があります。

    会社の課題などで読書感想文を提出する場合は例外です。どんな感想が求められているか想像し、そのラインを外れない範囲で書きましょう。

    ある自己啓発書についての感想文を書くよう言われた場合、出題者は、その本から社会人として学べたことや、仕事に活かせそうなことを書いてほしいと望んでいるはず。「つまらなかった」「役に立たなかった」という感想が求められていないことは容易に想像できますね。

    その読書感想文を誰に読ませるのか、読書感想文の目的は何かを考慮し、方向性を調整しましょう。

    題名は個性的に

    読書感想文の題名にもこだわりましょう。前出の齋藤氏によれば、「○○を読んで」のようにありきたりな題名だと、それだけで「工夫がない」「つまらない」と判断されかねないそう。読者の目にとまるような、キャッチーなタイトルを考えてみましょう。

    齋藤氏によれば、本を読んで「大事だ」と感じたポイントを簡潔にまとめタイトルにすると、読者の心を動かしやすいそう。

    ……など、さまざまなアプローチが考えられるでしょう。

    あらすじは必須ではない

    読書感想文には、必ずしも本のあらすじや要約を書く必要はありません。読書感想文は、あなたがどんな感想をもったかを伝えるもので、本の内容を読み手に教えるものではないからです。

    課題図書が指定されているなら、読み手はその本の内容を熟知していると考えて間違いありません。むしろ、あらすじや要約は書かないほうが読みやすいでしょう。

    どうしても必要な場合や、本文を引用したい場合などを除き、あらすじ・要約は省略することをおすすめします。

    意外性を意識する

    繰り返しますが、おもしろい読書感想文に必要なのは「意外性」です。齋藤氏によれば、人は「予想を超えた意外性のあるもの」を目にしたとき、ワクワクとおもしろさを感じるそう。

    小説や映画、ドラマなどを考えてもわかります。「おもしろい」と感じるのは、予想もしなかった意外な展開になったり、登場人物が突拍子もない行動をしたりなど、「意外さ」に出会ったときですよね。

    読書感想文に「桃太郎はとても立派だった」と書いたらどうでしょう? たしかに感想ですが、誰もが考える「普通」の意見であり、驚きも新鮮さも感じられません。「おもしろい」とは思ってもらえないのです。

    「桃太郎は、本当は間違っていたのではないだろうか」「鬼は、本当は善人だったのではないか」

    こんな方向性だと、「桃太郎は立派だ」という前提が裏切られ、意外性が生まれます。「そう来たか!」と感じさせる、おもしろみのある読書感想文になるのです。「桃太郎は立派だった」と書くとしても、そこから展開する議論や結論に意外性があれば、おもしろい読書感想文として評価されるでしょう。

    哲学者の小川仁志氏も、自分なりの意見を考えるテクニックとして「本の内容にあえて “ケチ” をつけてみる」よう提唱しています。本における主張の “逆” を考えることで「普通でない意見」が生まれやすくなるのです。

    無理にひねくれた意見を書く必要はありませんが、読書感想文をよりおもしろく仕上げたいなら、「意外性」という要素を意識してみましょう。

    自分に置き換えて考える

    家庭教育研究家の田宮由美氏は、読書感想文の書き方のコツとして、「もし自分だったら」と想像したり、自分の体験談を交えたりするようすすめています。

    誰しも、自分の考えや体験についてはスラスラ言葉が出てくるもの。

    ……など、自分に引き寄せて考えると、書くべき内容が思いつきやすくなります。

    特に、体験談がおすすめ。自分以外は誰も体験していない情報なので、読み手にとって新鮮です。読書感想文に「オリジナリティ」や「意外性」を加えることができます。

    ご紹介した「読書感想文の書き方のコツ」にも留意しつつ、優れた読書感想文の完成を目指しましょう。

    上手な読書感想文の書き方を学べる本・Webサイト

    読書感想文の書き方をさらに深く学びたいなら、こちらの書籍やWebサイトもおすすめです。

    Amazon
  • 「青少年読書感想文全国コンクール」毎日新聞社等主催「青少年読書感想文全国コンクール」の公式サイト。小学生~高校生による優れた読書感想文を多数掲載
  • 『だれでも書ける最高の読書感想文』本記事でもたびたび名前を挙げた、教育学者・齋藤孝氏の著書。読書感想文の基本が平易に解説されており、読書感想文の書き方を学ぶならまず一読したい

    だれでも書ける最高の読書感想文 (角川文庫)

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  • ***上手な読書感想文の書き方は、「書き出し」と「締め」、全体の構成を決めてから執筆するのが基本。ご紹介したコツや例文を参考に、あなたも読書感想文の完成を目指しましょう。

    (参考)皇學館大学|論の構造齋藤孝(2012),『だれでも書ける最高の読書感想文』, KADOKAWA.小川仁志(2016),『7日間で成果に変わる アウトプット読書術』, 星雲社.文化デジタルライブラリー|芸の特徴:マクラ+本題+サゲで構成All About|読書感想文の書き出しから結論まで! インパクトを残す構成とはAll About|読書感想文例を使って書き方を徹底解説!例文付き

    【ライタープロフィール】佐藤舜大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。