“通勤電車でも途切れないau 4G LTE”を支える裏方「SQAT」

絶対に途切れないネットワークを目指す「SQAT」

宮尾氏 auは、お客様が携帯電話をいつでも快適にご利用いただけるよう、ネットワーク整備においても、お客様目線で不満点を解消する取り組みを進めています。

 3GからLTEへ、フィーチャーフォンからスマートフォンへ移行する中、ネットワークの品質改善のニーズはますます高まってきます。

 ここ数年の技術向上は著しく、LTEの最高速度は数倍になり、スマートフォンの通信量も飛躍的に拡大しました。

 一方で、利用できる電波の帯域には限界があり、混雑した場所などではどうしても通信が遅くなってしまうことがあります。そうした状況でも快適にお使いいただけるよう、2015年2月にネットワーク品質向上の専門部隊「SQAT(スカット)」を組織しました。

――「SQAT」という名前は、日本語の「スカッと」をもじっているのでしょうか。

宮尾氏 それは後付けですね(笑)。正式名称は「Special Quality And Tactics」です。ビッグデータを活用して改善ポイントを発見。蓄積したノウハウを全国に横展開し、通信品質への不満をスピーディーに改善していきます。

――具体的な取り組み内容をお聞かせください。

宮尾氏 例えば電車では、朝夕の通勤ラッシュに速度が遅くなりがちです。そうした混雑時にも、データ通信を快適にご利用いただけるように、集中的なネットワーク対策を行っています。

 そのためには、情報収集が欠かせません。SQATが特徴的なのは、実環境での調査を継続して実施していることです。鉄道では、東名阪の主な通勤路線にて、通勤時間帯のデータ通信速度調査を定期的に実施しています。

――どのくらいの頻度で行っているのでしょうか。

KDDI 技術統括本部 エリア品質強化室長 宮尾良徳氏宮尾氏 四半期に1回は全体点検として、全路線での調査を実施しています。1回調査を実施すると、いろいろなところに課題が見えてきます。全体点検の合間にはそうした課題の1つ1つに対象していくことで、地道な改善を続けています。

 ちなみに、調査対象となる路線の総距離は約2400km。SQAT発足後の約2年半で、四半期ごとの点検を計10回行っています。これまでに調査した距離を累積すると、実に地球半周分になります。

――計測機材は大きな荷物になりそうですが、ラッシュの時間帯にどうやって持ち込んでいるのでしょうか。

宮尾氏 どろくさい話ですが、ちょうど朝8時半にターミナル駅に着くような電車に、始発駅から乗り込んで調査しています。機材を膝の上に置いて計測するとか、周りのお客様からも違和感がないように工夫をしています。

 こういった鉄道の調査は、ピーク時の速度をどんと上げようというよりは、低速化を防いで「使っていて遅いな、イライラする」といった思いを無くしていくことが目的です。そのためにはやはり、ビッグデータの分析だけでは不十分で、現地現物で、お客様がおかしいなと感じているところを、しっかりと確認することが重要だと考えています。

――鉄道以外にはどのような取り組みがありますか。

宮尾氏 もう1つ、移動中の通信の不満を改善する取り組みとして重要なのが高速道路です。こちらではデータ通信に加えて音声通話、つまりVoLTEの品質改善も重点的に取り組んでいます。

 音声通話では、移動中に切れてしまうと、お客様にご迷惑をおかけしているということになります。そこでSQATでは、高速道路でも定期的な走行調査を実施し、ネットワークを評価しています。例えば東京の首都高速都心環状線では、切断数ゼロを目標に、月次で走行調査を行っています。

 高速道路での取り組みは、もちろん首都高以外でも行っています。東北自動車道、関越自動車道など、全国の主要な高速道路で定期的な評価を実施しています。さきほど、鉄道の調査で地球半周位の距離を調査したと申し上げましたが、高速道路の方が距離が長いので、だいたい1年間で、おそらく地球1周(約4万km)を超えるくらいの距離を走っているのではないかと思います。

“通勤電車でも途切れないau 4G LTE”を支える裏方「SQAT」

――通話が切れてしまう原因は、どのようなものがあるのでしょうか。

宮尾氏 例えば都市部なら、新しいビルが建設されると、周辺の電波環境に変化を及ぼします。また、新しい基地局を立てると、当然通信経路が変わってきますので、電波環境は良くなる場所ができる一方で、悪化する場所がでてくることがあります。そうした場所は実地調査によっていち早く突き止め、基地局をチューニングすることで改善できます。

――ただ単に何も考えずに基地局を建てると、逆に切れてしまうデメリットもあるのですね。

宮尾氏 そうです。せっかく高音質なVoLTEをご利用いただいているので、切れないネットワークを作っていこうと、継続して改善に取り組んでいます。

 auは、2014年から(3Gに対応しない)VoLTEオンリー機を市場投入しています。そこから2年半、継続してエリアを充実させていき、ネットワークのチューニングを重ねてきました。

 その結果として、VoLTE通話中の切断率は、2年半前のおおよそ6分の1くらいまで減ってきています。これが現時点のau VoLTEネットワークの実力です。おかげさまでお客様にご評価いただき、今年もJ.D.Power調査で2年連続の顧客満足度ナンバーワンとなることができました。

――現状、日本でVoLTEオンリーのネットワークを提供しているのはauだけですね。歴史的経緯から、auは3Gの巻き取りを早めに進める必要があったのだと思いますが、いち早くVoLTEへの移行を進めたことは、今後アドバンテージとなってくるのでしょうか(※3GではNTTドコモとソフトバンクが3Gでは多数派となったW-CDMA方式を採用しているのに対して、auは少数派となったCDMA2000方式を採用している)。

宮尾氏 もちろん、我々もVoLTEオンリーの時代がくることを見越して、ある程度計画的に移行を進めてきました。ここ2年で切断数が減少してきたというのも、その1つの結果のです。“VoLTE先駆者”として、いち早く取り組んできたノウハウを生かして、お客様により良いサービスを提供できるようにしていきます。

――auユーザー向けに提供している「au Wi-Fi接続ツール」には、通信状況を自動でレポートする機能が搭載されていますが、そのアプリから取得したデータも、改善に役立てられているのでしょうか。

宮尾氏 もちろんです。電波状況が特に悪く、場所について、アプリからのデータで可視化できるようになりました。

 逆に、改善対策を実施後、その対策した場所の変化が分かるのも、結構重宝していますね。自分たちで現地へ検証に行った時にたまたま再現しなかったものが、実は特定のシーンだけで通信が遅くなっていたということももありますし、お客様にご迷惑をかけてしまう範囲をより早く特定できるので、スピーディーな対策に繋げることができます。

――いくら対策を施しても厳しい“ネットワーク品質向上の難所”はありますか。

宮尾氏 やはり、新宿や渋谷のようなマンモス駅は厳しいですね。最新の高速化技術がいち早く投入される場所ではありますが、まず、基地局の設置場所からして争奪戦になっています。特に渋谷のスクランブル交差点周辺は、基地局が載っていない建物方が少ないという状況です。

竹下氏 後はスタジアムですね。こちらもターミナル駅と同じように人が集まる場所です。そして、構造上の制約から、限られた場所にしかアンテナをおけるスペースがありません。

――ここまでの「SQAT」の取り組みは、ネットワーク品質の向上に主眼を置いたものですが、カバーエリアの拡大についてはいかがでしょうか。

宮尾氏 街中以外にも、LTEエリアを広げていく活動を行っています。面白いところでいくと、尾瀬国立公園での取り組みがあります。

 尾瀬は、周囲を高山に囲まれた広大な湿原です。全域が国の特別天然記念物に指定されているため、基地局を設置するのが難しく、今までどのキャリアの携帯電話サービスが使えない場所となっていました。auは環境省や現地のみなさまとも協議し、尾瀬の山小屋で、LTEを使える環境を構築しています。2017年10月末時点では、尾瀬に21ある山小屋のうち19カ所で、LTEサービスを提供しています(※関連記事)。

KDDI 技術統括本部 エリア品質強化室 1Gグループリーダー 渡辺康史氏渡辺氏 今回の対策にあわせて、尾瀬にて誰でも使えるフリーWi-Fi「OZE GREEN Wi-Fi」の提供も開始しています。このフリーWi-Fiは、多言語の案内表示も用意しており、訪日外国人にもお使いいただいています。

 尾瀬の地域のかたにお話を聞くと、「外国人に尾瀬でのマナーやルールを啓蒙したいが、言葉が通じなくて難しい」というお困りの声がありました。今回の「OZE GREEN Wi-Fi」では接続した時に表示されるランディングページにて、多言語で尾瀬でもマナーを紹介しています。CSR(企業の社会的責任)の観点からも、地域に協力できたのではないかなと思います。

――こういう山間部のような、簡単に電柱立てて配線できないような場所も、今後LTEエリア化を進められるのでしょうか。

宮尾氏 もちろんです。お客様の声に耳を傾け、利便性を考えながら、地道にエリア改善を進めていこうと思っています。

竹下氏 今年の春には長野県の奥上高地を「山岳反射」という特殊な手法によってサービスエリアにしています(※関連記事)。エリア化の対象となった地区は、通信回線や電源を確保できないような奥地ですが、山の向こう側の基地局から電波を飛ばし、切り立った岩壁に当てることで、反射波を利用したエリア化に成功しました。

 電波は反射させると、散逸してしまうものですので、山岳反射という手法はよほど条件が整わないと利用できませんが、さまざまな手法を考案して、これまでエリア化できなかったところまでも、サービスエリアにしていきたいと考えています。