ドコモは「For All」をキーワードに「みんなのドコモ」を目指す

変わりはじめた競争軸

 改めて説明するまでもないが、NTTドコモは国内で最大の契約数を持つ携帯電話事業者だ。日本電信電話公社のポケベルサービスや自動車電話サービスを引き継ぐ形でスタートした同社は、携帯電話サービスを展開し、iモードなどのヒットサービスを生み出し、現在に至っている。現在の国内の携帯電話事業者はNTTドコモをはじめ、au(KDDI)、ソフトバンクの3社に集約され、今年4月に1.7GHz帯の免許を与えられた楽天が新たに業界に参入し、2019年10月にサービスを開始する予定となっている。

ドコモは「For All」をキーワードに「みんなのドコモ」を目指す

 こうした携帯電話業界の隆盛を語るうえで、ひとつの評価軸として、長らく注目されてきたのが「契約数」だ。契約数が多いということは、多くのユーザーが選んでいる裏付けであり、エリアやネットワーク、サービスなどが充実しているだろうという解釈だ。もちろん、企業としても契約数は売り上げに直結する指標であり、経済紙などでは契約数や純増の多さなどで、各携帯電話事業者の勢いを評価する傾向にある。

 NTTドコモはもっとも早くから事業をスタートさせていたこともあり、当初は圧倒的なシェアを確保していたが、新規事業者の参入をはじめ、2006年にスタートした携帯電話番号ポータビリティ(MNP)などの影響もあり、トップシェアはキープしているものの、他社にシェアを奪われる形が何年も続いていた。特に、MNPがスタートしたばかりの頃は、「MNP転入が事業者の人気のバロメータ」といった解釈が強調されたこともあり、各社の激烈なMNP獲得競争がくり広げられ、NTTドコモは一時、純減を記録するなど、多くの契約者を流出させてしまった。また、近年は「格安SIM」「格安スマホ」を謳うMVNO各社、サブブランド各社が攻勢を強めつつある。

 他業種でも指摘されているように、これから日本は少子高齢化の時代を迎える。携帯電話が高価な持ち物だった時代から「1人1台」の時代を経て、現在は契約数が人口を超えるところまで普及した。スマートフォンとタブレット、個人用と会社支給など、1人で複数の契約を持つこともそれほど珍しいことではなくなってきたが、それでも契約数を伸ばし続けることが難しくなることはある程度、見えている。5G時代に入れば、自動車や機械などにも組み込まれるため、契約数自体は伸びるかもしれないが、これまでのように「契約数×利用料金」という単純な図式だけでは、十分な利益が確保できなくなるかもしれない。つまり、新しい時代へ向けて、どのように成長戦略を描いていくかが各携帯電話事業者にとって、ひとつの課題となっている。

 こうした状況に対し、NTTドコモは4月に行なわれた決算会見の場でも説明したように、今後、これまでのような契約数ベースの戦略を拡大し、dアカウント(dポイント会員)を軸にした『会員』数ベースで事業を展開していく方針を明らかにしている。これまでのように、MNPや新規契約などで契約数を追うのではなく、「dアカウントを持つ他社ユーザー」も含めた会員基盤を拡大し、さまざまなサービスを提供することで、事業を展開し、利益を上げていくというわけだ。その方針を裏付けるように、今年5月1日には同社サイトのトップに、「ドコモは、みんなにオープンだ」というメッセージを掲げたWebページを公開している。詳しい内容はWebページをご覧いただきたいが、スマートフォンや通信だけではない新しい事業を展開しようというNTTドコモの強いメッセージが伝わってくる。

ドコモのWebサイトに掲げられているメッセージ

 そんな状況を受ける形で、5月16日に開催されたのがNTTドコモの2018年夏モデルの発表会だ。プレゼンテーションに登場したNTTドコモの代表取締役社長の吉澤和弘氏は、冒頭に「For All」というキーワードを掲げ、ドコモのユーザーはもちろん、ドコモのユーザー以外も含め、期待を超える感動と驚きを届けたいという方針を説明した。