NVIDIAのArm買収で広がる波紋 「Armアーキテクチャ」制限の事態も?:NVIDIAによる混迷の「Arm買収劇」【後編】

 ITベンダーがArmと縁を切ることを選ぶ可能性もある。だが、その決断は容易なことではない。「長期的な問題は、同等なものを独自に作り出せるか、あるいは代わりの選択肢を見つけられるかだ。答えはイエスであり、どちらも実現できる。だがそれが簡単なら、間違いなく彼らはとっくにそうしていたはずだ」とペルツシャープ氏は語る。

 「米国企業もこの買収の影響を懸念する中、中国ではこの買収へのはるかに大きな反発が起こる」。こう予想するのは、調査会社IDCのワールドワイドインフラプラクティス担当グループバイスプレジデント、アシシ・ナドカーニ氏だ。NVIDIAはこの買収によって、独自の半導体の製造だけでなく、設計も手掛ける半導体ベンダーになる。これに伴い、NVIDIAのライバル企業、特にHuawei Technologiesのような企業にArmアーキテクチャをライセンスすることが、NVIDIAにとっての問題になる可能性があるからだ。

NVIDIAのArm買収で広がる波紋 「Armアーキテクチャ」制限の事態も?:NVIDIAによる混迷の「Arm買収劇」【後編】

 ナドカーニ氏によると、Huaweiは独自のGPU(グラフィックス処理ユニット)を開発しており、NVIDIAと競合している。一方でHuaweiとArmは、中国でArmの関連会社を通じて協業している。NVIDIAがArmを傘下に収めれば、ArmとHuaweiはライバル企業になる。中国企業であるHuaweiが、米国政府の規制により、Armとのビジネスを制限される可能性もある。

 「中国企業はArmを頼りにしていた」とナドカーニ氏は説明する。Armは米国企業ではなく英国企業であり、Armの資本が入った合弁会社を中国に持っている。「その合弁会社のおかげで、中国企業は米国政府による中国への制裁を逃れていた」と同氏は語る。米国企業であるNVIDIAがArmの親会社になれば、中国におけるArmの合弁会社は独立性を失う可能性がある。「それを避けるために中国側がNVIDIAに対してどんな主張をするかは分からないが、強硬なものになるのは確かだ」(同氏)

 ArmのIP(知的財産)ライセンスを受ける企業はHuaweiだけではない。「中国の新興半導体ベンダー数社も、NVIDIAによるArm買収の影響を受ける可能性がある」と、ITコンサルティング会社J.Gold Associatesのプレジデント兼プリンシパルアナリスト、ジャック・ゴールド氏は話す。

 欧州でも米国でもこの買収に対する反発の声が上がっているため、買収の承認に関する当局の判断は大きく遅れる可能性がある。「買収が成立するとしても、とんとん拍子とはいかず、時間のかかるプロセスになるだろう」(ゴールド氏)

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